
はじめに
自社のWebサイトやアプリケーションを、堅牢な「要塞」だと想像してみてください。
この要塞が、本当に堅牢なのか、果たして忍び込む隙がないのだろうか、事前に確認しておきたいと思いませんか?ペネトレーションテストとは、いわば「善良なハッカー(エシカルハッカー)」に頼んで、実際に要塞へ侵入を試みてもらうようなものです。
ただし、彼らは物を盗むわけではありません。アプリケーションの弱点を見つけようとしているだけです。これらの弱点には、推測しやすいパスワード、隠されたバックドア(進入用の裏口)、または、バイパスされた防御(鍵の掛かっていない窓)などが含まれます。
実施プロセス:どのように行うのか?

1. 計画・準備
最初に、テストの対象範囲(スコープ)、目標(ターゲット)、シナリオなどを定義します。
つまり、「何をテストしたいのか」、「どのように実施するのか」を決めていきます。これには、偽の攻撃を設定したり、さまざまな攻撃のための手法を試したり、アプリのどの部分に焦点を当てるかを選択したりすることが含まれます。
2. 情報収集・分析
次に、対象システムに関する情報を収集し、特別なツールを使用してアプリの脆弱性をスキャンします。
これらのツールは既知の脆弱性をリストアップするために使用します。広範囲かつ自動的に対象システムをスキャンし、攻撃の糸口となる脆弱性を特定します。これには、「すべてのドアが解錠されているか」、「簡単に侵入できる入口がないか」を確認するのと似ています。
3. 侵入試行
さあ、ここからが、テストの核心部分です。このフェーズでは、分析した脆弱性を利用して、実際にシステムの内部への侵入や、権限の奪取を試みます。
これには、パスワードを推測したり、設定の不備や、認証情報の窃取を試みたり、既知の弱点を悪用するために、アプリに侵入するためのさまざまな試みを行います。
4. 報告・提言
最後に、発見した脆弱性の詳細、攻撃シナリオ、そして具体的な改善策をまとめた報告書を作成します。これは、あなたの『要塞』のすべての弱点の地図と、それらを強化する方法の指示を提供するのと似ています。
ペネトレーションテストのメリット

悪い人が見つける前に弱点を発見し、あなたの評判を守り、法令遵守を支援します。
悪意のある攻撃者に見つけられる前に弱点を特定する: ハッカーが見つける前に脆弱性を明らかにすることで、問題が発生する前に修正できます。
企業の評判を守る: アプリがハッキングされると、会社の評判に影響を与える可能性があります。ペネトレーションテストは、アプリを安全に保つことでそれを防ぎます。
コンプライアンスを満たす: 多くの業界では、定期的なセキュリティテストが規制で求められます。ペネトレーションテストは、これらの規則に準拠するのに役立ちます。
さらに、高度なペネトレーションテストでは、基本を超えたテクニックを用いて、より深い脆弱性を発見することを目指します。例えば:
- ソーシャルエンジニアリング(人々を騙して機密情報を取得)
- ゼロデイ攻撃(まだ知られていない脆弱性を突く攻撃)
- 高度な回避技術(セキュリティ対策をすり抜ける方法を見つける)
『脆弱性診断』との違い
よく似た言葉に「脆弱性診断」がありますが、これはシステムに潜む既知の脆弱性を網羅的に洗い出す「健康診断」のようなものです。一方、ペネトレーションテストは、発見した脆弱性を実際に悪用して「どこまで侵入できるか」を試す「精密検査」であり、より実践的なリスク評価と言えます。

標準的なガイドラインへの準拠が品質のカギ

品質の高いペネトレーションテストは、担当者の勘や経験だけに頼るのではなく、国際的に認められた標準的なガイドラインに沿って実施されるべきです。ガイドラインが示す、テストの網羅性、客観性、再現性が担保されます。
代表的なガイドライン
代表的なガイドラインには、以下のようなものがあります。
- OWASP Top 10:
業界標準ともいえる、Webアプリケーションにおける最も重大なセキュリティリスクをランキング形式でまとめた、世界的な指標です。 - PTES (Penetration Testing Execution Standard):
ペネトレーションテストの各フェーズ(情報収集、攻撃、報告など)を具体的に定義した、より実践的な「標準手順書」です。 - NIST SP 800-115:
米国国立標準技術研究所(NIST)が定める、情報セキュリティテストの技術的な指針です。「どのように」テストを進めるべきかという、全体の「作法」を定義します。
まとめ:専門家の目で「要塞」の強度を確かめよう

ペネトレーションテストは、攻撃者の視点で自社システムのセキュリティ強度を実践的に評価し、リアルなリスクを浮き彫りにするために、きわめて有効な手段です。
定期的に『善良なハッカー』によるチェックを受けて『悪意のハッカー』からの攻撃を受ける前に、対策を行い、会社の資産と顧客の安全、そして信頼を守ることができます。
標準的なガイドラインを守りながら、必要に応じて高度な技術を取り入れることで、ペネトレーションテストの効果を最大限に高めましょう。
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投稿者プロフィール

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Offensive Security Engineer
15年以上の実績を持つ国際的なホワイトハッカーで、日本を拠点に活動しています。「レッドチーム」分野に精通し、脆弱性診断や模擬攻撃の設計を多数手がけてきました。現在はCyberCrewの主要メンバーとして、サイバー攻撃の対応やセキュリティ教育を通じ、企業の安全なIT環境構築を支援しています。
主な保有資格:
● Certified Red Team Specialist(CyberWarFare Labs / EC-Council)
● CEH Master(EC-Council)
● OffSec Penetration Tester(Offensive Security)