
生成AI / LLM を対象にした ペネトレーションテスト
「データ」が新たなアタックサーフェスになるとき
私たちはしばしば、「 生成AI (LLM) の活用は、学習データの質で決まる」といった言葉を耳にします。 しかし、もしそのデータが汚染(ポイズニング)されていたり、偏っていたり、あるいは操作されていたとしたらどうでしょうか?
例えば、過去の融資データを学習した金融AIを想像してみてください。攻撃者が不正な借り手を「信頼できる」と示す記録をデータに紛れ込ませることに成功すれば、AIは危険な融資を承認し始めるかもしれません。あるいは、臨床データを学習した医療AIを考えてみてください。もしデータセットが改ざんされれば、診断結果が危険な方向に変わってしまう可能性があります。
これこそが、「データセット・ペネトレーションテスト」 が極めて重要な分野として台頭している理由です。従来のペネトレーションテストがアプリケーション、API、ネットワークに焦点を当てるのに対し、データセット・ペンテストは、生成AIや機械学習モデルを支えるデータパイプラインそのものを評価します。
▼CyberCrewの AI(LLM)セキュリティ対策
私たち CyberCrew は AI/LLMペネトレーションテストをご提供しています。企業が生成AIを安全に導入できるよう、データを中心とした評価も行っています。
「データセット・ペネトレーションテスト」とは?

データセット・ペネトレーションテストとは、AI/MLモデルが使用するデータに対し、現実世界の敵対的攻撃をシミュレートすることで、弱点、データ汚染(ポイズニング)の試み、プライバシーリスクを特定する実践的な手法です。
このテストは、主に3つの重要な側面に焦点を当てます。
- 完全性(Integrity): 攻撃者はモデルの挙動を変えるためにデータを操作できるか?
- 機密性(Confidentiality): 学習データセットから機微な個人データが漏洩する可能性はないか?
- 信頼性(Reliability): 不正なデータ入力によって、モデルの不安定化やハルシネーション(もっともらしい嘘)を引き起こせるか?
これは、まさに 「データに対するエシカルハッキング」 だと言うことができます。
このテストは、単なるファイアウォールやプロンプトの検証にとどまりません。AIの基盤となるデータパイプラインそものが、改ざん、汚染、不正利用といった脅威に対して、耐性(レジリエンス)を持っているかを徹底的に調査するのです。
生成AI / LLM におけるデータセット・ペネトレーションテストの重要性
- AIはデータに飢えている
LLM、コンピュータビジョン、推薦エンジンなどは、膨大なデータセットを消費します。これらのデータは、社内ログ、ウェブ上の公開情報、外部ベンダー、クラウドソーシングなど、多様なソースから集められます。そのため、データ汚染の格好の的となります。 - データは最も弱い鎖
たとえAIのインフラが安全でも、汚染されたり偏ったりしたデータはすべてを台無しにします。攻撃者はデータセットを介してバックドアを仕掛けることができ、モデルはそれを忠実に再現してしまいます。 - コンプライアンスと規制
欧州AI規制法(EU AI Act) や 米国NIST AI リスクマネジメントフレームワーク (RMF) のようなフレームワークは、データソースに関する透明性を要求しています。データセットをペネトレーションテストすることは、適正評価(デューデリジェンス)を示し、企業を法的リスクから守ります。 - 信頼とブランドイメージ
データに起因するたった一度の失敗(偏見のある採用AI、個人情報の漏洩、差別的なチャットボットなど)が、顧客の信頼を壊滅させることがあります。データセット・ペンテストは、そのようなインシデントが公になる前に防ぎます。
データセットを狙う、典型的な5つの脅威
- データ汚染(Data Poisoning): 攻撃者が悪意のあるレコードを挿入し、モデルの挙動を歪める。
- バックドア攻撃: 特定の条件下でモデルを誤作動させる、隠されたトリガーを埋め込む。
- バイアス注入: 体系的な不公平さを生み出すために、データを意図的に偏らせる。
- データ漏洩リスク: AIの出力から、意図せず機密情報が漏洩する。
- パイプラインの完全性への攻撃: データの収集、前処理、保存の段階で改ざんを行う。
CyberCrew の生成AI / LLM ペネトレーションテストへのアプローチ

私たち CyberCrew(サイバークルー) は、データセットおよびLLMのペネトレーションテストサービス を公式に提供する、日本で最初の企業の一つです。CyberCrewは 大規模言語モデル(LLM)ペネトレーションテストの専門知識を基盤に、データセットそのものまでテスト範囲を拡張しています。
主な特徴 – CyberCrewのメソロジー
- プロンプトインジェクション & データ汚染テスト:
敵対的なデータ操作をシミュレートし、AIモデルがどれだけ容易に騙されるかをテストします。 - データ漏洩・プライバシー侵害テスト:
機密情報(個人情報、企業秘密など)がAIの応答から漏れ出ないことを保証します。 - 最新フレームワーク準拠:
OWASP Top 10 for LLM Applications、 MITRE ATLAS™、NIST AI RMFといった世界的に認知された方法論に準拠してテストを実施します。 - 高度な手動テスト:
ツールだけに頼らず、CyberCrewのホワイトハッカーが、現実的な汚染攻撃やバイアス攻撃を模倣した、文脈に応じた敵対的データセットを設計します。 - 改善提案 & 運用支援:
報告書ではリスクを指摘するだけでなく、データセットの検証、ガードレールの強化、プライバシー保護技術といった、具体的な改善策を推奨します。
データセット・ペネトレーションテスト に含まれるもの
- データソースの発見とマッピング
社内ログ、サードパーティAPI、オープンソースデータセットなど、すべてのデータソースを特定します。 - 脅威モデリング
攻撃者のゴール(汚染、バイアス注入、漏洩)をマッピングします。CyberCrewは、敵対的AIの脅威シナリオとしてMITRE ATLAS™を活用します。 - データ汚染とバックドアのシミュレーション
制御された異常データを導入し、モデルが悪意のある挙動を学習しないかテストします。 - バイアスと公平性のテスト
データセットが均衡を保っているか、敵対的に偏っていないかを分析します。 - パイプラインのセキュリティレビュー
データの保存、取り込み、前処理のパイプラインが改ざん防止策を備えているかを確認します。 - 報告と改善提案
CyberCrewは、意思決定者向けの経営層サマリーと、開発者向けの技術的な詳細という、2層構造のレポートを提供します。
現実世界との関連性
- 医療: 汚染された医療記録が、診断AIを破壊するのを防ぐ。
- 金融: 不正検知AIに利用される、操作された取引ログを検出する。
- Eコマース: 推薦システムが偏ったり、改ざんされたりしていないことを保証する。
- 政府: 国勢調査や市民データといった機密情報が漏洩するのを防ぐ。
CyberCrewは、これらの課題に直面する日本企業の信頼できるパートナーとして、投資家の要求、監査、コンプライアンス要件への対応を支援しています。
データセット ペネトレーションテスト のメリット
- 可視化: 学習データに潜む、隠れたリスクを明らかにします。
- 信頼性向上: AIの誤作動によるブランドイメージの毀損を防ぎます。
- 規制遵守: 国際的なコンプライアンス・フレームワークの要件を満たします。
- 投資家対応: 資金調達や提携の際に、強固なAIガバナンスの証拠を提示できます。
- 安心のAI活用: AI駆動型サービスの安全なスケールアップを可能にします。
▼生成AIが生み出した、
新たなセキュリティリスクの対策

LLMペネトレーションテストサービスは、LLM活用における未知のセキュリティリスクの可視化します。
– プロンプトインジェクション(命令逸脱)
– 学習データ由来の情報漏洩
– 外部APIの悪用(Plugin・Zapier経由)
– 認証回避、アクセス制御ミス、DDos
生成AI / LLM に関する今後の展望

AIが経済を牽引する時代において、データは単なる資産ではなく、「アタックサーフェス」 です。多くの組織がLLMのペネトレーションテストを模索し始めていますが、データセット・ペネトレーションテスト に正面から取り組んでいるのは、ほんの一握りです。
CyberCrewはアジアにおける先駆的な役割を担っており、世界的にもSynack、Kroll、Bugcrowdといった企業がそれぞれの方法で敵対的AIテストに取り組んでいます。データセットへの攻撃がより巧妙化するにつれて、データセット・ペンテストは AI導入パイプラインにおける必須のステップ となるでしょう。
結論:未来の信頼は、根本の「データ」から始める
アプリケーションやAPIの保護は、もはや当然になっています。しかし、AIのセキュリティは、その根本である学習データそのもの に移っています。データが侵害されれば、AIシステム全体が危険にさらされてしまいます。
LLMペネトレーションテストがAIの 「応答」 を守るなら、データセット・ペネトレーションテスト はAIが 「何を学ぶか」 を守ります。
この両輪が揃って初めて、企業はAIという強力なエンジンを、自信と信頼を持って動かすことができるのです。CyberCrewは、その基盤作りをサポートします。
次の記事では、LLMのセキュリティリスクに関するガイドラインである「OWASP Top 10 for LLM」について解説しています。
【コラム】【2025年最新】OWASP Top 10を徹底解説!
投稿者プロフィール

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Offensive Security Engineer
15年以上の実績を持つ国際的なホワイトハッカーで、日本を拠点に活動しています。「レッドチーム」分野に精通し、脆弱性診断や模擬攻撃の設計を多数手がけてきました。現在はCyberCrewの主要メンバーとして、サイバー攻撃の対応やセキュリティ教育を通じ、企業の安全なIT環境構築を支援しています。
主な保有資格:
● Certified Red Team Specialist(CyberWarFare Labs / EC-Council)
● CEH Master(EC-Council)
● OffSec Penetration Tester(Offensive Security)
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