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LLM03:2025 サプライチェーンの脆弱性を徹底解説|AI開発者が直面する課題

はじめに:AIに潜むサプライチェーンという弱点

サイバーセキュリティの世界では、古くから「サプライチェーンの脆弱性」が深刻な脅威とされてきました。SolarWinds 事件や Log4j の脆弱性[1]が示すように、攻撃者はシステムそのものを狙うのではなく、周辺のサードパーティコンポーネントを足掛かりに侵入し、結果として広範なエコシステム全体を危険にさらすことができます。

そしてAI時代の到来により、このリスクはさらに拡大しています。大規模言語モデル(LLM)は 非常に多層的なサプライチェーンに依存しており、事前学習済みモデル、ファインチューニングのためのアダプタ、オープンソースリポジトリ、学習用データセット、クラウド基盤、さらには端末上での実装に至るまで、あらゆる要素が新たな攻撃対象になっています。つまり、一つの弱点が全体のセキュリティを崩壊させる可能性があるのです。

OWASP Top 10 for LLM Applications (2025) では、この課題を LLM03:2025 Supply Chain として位置づけ、AI開発者や利用企業にとってサプライチェーン攻撃がいかに現実的で差し迫った問題であるかを指摘しています。本記事では、そのリスクの実態と攻撃シナリオ、具体的な防止策、さらに CyberCrew がどのように支援できるかを詳しく解説します。

LLMサプライチェーンの脆弱性とは

従来のアプリと異なり、LLMの構築プロセスはより多様で複雑です。以下の要素が主な構成要素です。

  • 事前学習済みモデル(Hugging Faceなどのプラットフォームから入手される公開モデル)
  • ファインチューニング手法(LoRA、PEFT、アダプタ統合など効率化のための技術)
  • データセット(オープンソースや企業独自、あるいはクラウドソースによる大規模データ)
  • デプロイ基盤(クラウド環境、モバイルやIoTなどの端末、推論フレームワーク)

これらの要素の一つひとつが、改ざん、データ汚染、更新停止によるリスクを抱えています。たとえば、たった1つの非推奨アダプタや侵害されたリポジトリが導入されるだけで、システム全体の信頼性が崩れ、利用者や企業に甚大な被害をもたらすことがあるのです。

サプライチェーンリスクの代表例

1. サードパーティパッケージの脆弱性

AIシステムはPyTorchやTensorFlowといったライブラリに依存しています。これらが古いバージョンのまま放置されると、既知の脆弱性を突かれて攻撃者に基盤を乗っ取られる危険性があります。ShadowRay攻撃 はその代表例であり、依存関係管理の甘さがAI基盤全体を危険にさらす典型です。

2. ライセンスリスク

学習データやモデルの多くはオープンソースとして公開されていますが、ライセンス違反による法的トラブルは後を絶ちません。商用利用禁止条項や帰属表示義務を無視すると、企業は巨額の訴訟リスクにさらされる可能性があります。

3. 廃止されたモデル

更新が停止したモデルを使い続けることは、既知の脆弱性を放置することに等しい行為です。また古いモデルには未修正のバイアスが残されており、公平性や倫理面のリスクも増大します。

4. 脆弱な事前学習済みモデル

事前学習済みモデルには、バックドアや隠された操作が仕込まれている可能性があります。ソースコードのように内部を詳細に監査できない「ブラックボックス」であるため、利用者は提供者を信じるしかなく、保証が難しいのが現実です。

5. モデルの真正性不足

Hugging Faceのようなリポジトリでは Model Card による情報公開が行われていますが、それだけでは完全な安全性を保証できません。実際に「WizardLM」の偽バージョンが公開され、ユーザーを騙してマルウェアを拡散させた事例が存在します。[2]

6. LoRAアダプタの脆弱性

LoRAは効率的なファインチューニングを可能にする一方、悪意あるアダプタが組み込まれた場合にはモデル全体の挙動を乗っ取られるリスクが生じます。

7. 協調開発の悪用

コミュニティ内でのモデル統合やマージ作業は一般的ですが、攻撃者がレビューをすり抜けて 悪意のあるコード を紛れ込ませる危険性があります。こうした協調開発の透明性不足は、潜在的なリスク要因となっています。

8. 端末上での脆弱性

オンデバイスLLM(スマートフォンやIoT機器)では、製造工程の不備やファームウェアの改ざんを通じて 大規模なバックドア が仕込まれる可能性があります。これにより、利用者が気づかぬまま情報漏洩が発生する恐れがあります。

9. 不透明な規約とプライバシー

一部のサービス提供者は規約を密かに変更し、ユーザーデータを再学習に利用することがあります。これにより、利用者の知らぬ間に 機密情報の漏洩 が起こるリスクが生じます。

攻撃シナリオの例

以下は実際に想定される攻撃シナリオの一部です。これらは単なる理論上の話ではなく、現実に起こり得る具体的なリスクです。

  • シナリオ#1: 脆弱なPythonライブラリ
    PyPIが侵害され、PyTorch依存ライブラリにマルウェアが仕込まれる。
  • シナリオ#2: PoisonGPT
    攻撃者が安全機能を解除したモデルを再公開し、ユーザーを騙して利用させる。
  • シナリオ#3: 保険業界向け改変モデル
    ベンチマークでは高得点だが、隠しトリガーで不正挙動を引き起こす。
  • シナリオ#4: 未検証の事前学習済みモデル
    企業が検証なしに導入した結果、内部に仕込まれたバックドアが悪用される。
  • シナリオ#5: 改ざんされたLoRAアダプタ
    不正なアダプタが組み込まれ、攻撃者に遠隔操作される。
  • シナリオ#6: クラウド攻撃
    クラウド基盤のファームウェアを狙った攻撃で、ホストされたモデルが侵害される。
  • シナリオ#7: GPUメモリ残留情報 (CVE-2023-4969)
    GPUメモリに残ったデータを解析され、学習データが漏洩する。[3]
  • シナリオ#8: 偽モデルリポジトリ
    有名モデルのクローンを偽装し、マルウェアを仕込んだリポジトリを公開。
  • シナリオ#9: モバイルリバースエンジニアリング
    端末上のモデルが差し替えられ、ユーザーを詐欺サイトに誘導する。
  • シナリオ#10: データセット汚染
    公開データに仕込まれたバックドアが学習結果を歪め、攻撃者に有利な挙動を生成する。

防止と緩和策

こうしたリスクに備えるには、従来型のセキュリティ管理だけでは不十分です。AIに特化した新しい対策が必要となります。

  1. 供給元の精査
    信頼できるモデルやデータのみを利用し、利用規約やプライバシーポリシーを慎重に確認する。
  2. 脆弱コンポーネントの修正
    OWASPの「A06:2021 脆弱で古いコンポーネント管理」を適用し、古いパッケージを排除。
  3. SBOMの維持
    ライブラリ、データセット、アダプタを含めたソフトウェア部品表を整備。
  4. モデルの整合性検証
    ハッシュ値や署名により正当性を確認し、未検証のリポジトリを排除する。
  5. レッドチーム演習
    外部モデル導入前に敵対的テストを行い、ベンチマーク依存を避ける。
  6. ライセンス管理
    OSSやデータセットのライセンスを継続的に管理し、違反リスクを排除。
  7. 共同開発環境の監視
    モデルマージの透明性を高め、検知ツールを活用する。
  8. エッジ環境の保護
    端末上のモデルを暗号化し、改ざんを検知できる仕組みを導入。
  9. 異常検知と汚染テスト
    MLOpsに組み込み、 adversarial robustness テストを標準化する。

CyberCrew:LLMサプライチェーンセキュリティの専門家

CyberCrew は、2025年に急増するAIサプライチェーン攻撃 を最も重要なリスクのひとつと位置づけています。当社のLLMペネトレーションテストサービスは、プロンプトインジェクションやデータ漏洩検証にとどまらず、サプライチェーン全体の攻撃耐性を評価します。

専門領域

  • 依存関係分析: すべてのライブラリやフレームワークを網羅的に点検。
  • モデル真正性テスト: ダウンロードモデルの正当性を検証。
  • 敵対的テスト: 改ざんLoRA、偽リポジトリ、汚染データセットを想定。
  • クラウド・オンデバイス評価: CloudBorneやCloudJacking、ファームウェア攻撃への耐性確認。
  • SBOM導入支援: ML特化型SBOMの運用を支援し、コンプライアンスを確保。

CyberCrew と協働することで、AIモデルは単に高性能であるだけでなく、サプライチェーン全体で安全性が保証された状態になります。

結論:AIサプライチェーンのセキュリティは必須

AIはデータセットやモデル、プラットフォームといった共有リソースに依存して発展しています。しかし、この依存が新たなリスクを生み出しているのも事実です。

LLM03:2025 Supply Chain が示すのは、次の重要なポイントです。

  • 第三者ライブラリやモデルの厳格な精査
  • SBOMによる部品の可視化
  • アダプタや統合モデルに対する敵対的テスト
  • クラウドとオンデバイスの両面からの防御

CyberCrew は、日本国内外で データ・モデル・サプライチェーン全体を対象としたLLMペネトレーションテストを提供しています。AI時代においては、サプライチェーンの最も弱い環がシステム全体を崩壊させかねません。 proactiveな検証こそが唯一の解決策なのです。

参考資料

[1] SolarWinds事件・Log4j脆弱性

[2] WizardLMの偽モデル事例

  • Hugging Face公式ブログ: Hugging Faceが偽モデルへの対策について言及したブログ記事。WizardLMの偽モデルがアップロードされた事例についても触れられています。
  • セキュリティ研究者の報告: 独立したセキュリティ研究者やコミュニティがこの事例について言及している報告書やフォーラム。

[3] CVE-2023-4969(GPUメモリ残留情報)

補足:

  • ShadowRay攻撃に関しては、特定のニュース事例やCVE番号が見つかりませんでした。これは、LLMやAIセキュリティ研究者が提唱した概念的、あるいは実験的な攻撃手法である可能性が高いです。その場合、「研究者が提唱した攻撃シナリオ」といった形で補足することで、読者の誤解を防ぎ、信頼性を維持できます。
  • PoisonGPTも同様に、特定のニュース事例よりも、研究者がデータ汚染を説明するために用いる総称的な名称である可能性が高いです。
  • WizardLMの偽モデルの具体的なURLが見つかりませんでしたが、このような事例があったことを示すだけでも、記事の説得力は高まります。

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CyberCrewのペネトレーションテストサービスは、この記事で開設した国際的な基準のフレームワークに準拠し、お客様のビジネスに潜む本当のリスクを可視化する「真のペネトレーションテスト」をご提供しています。

投稿者プロフィール

イシャン ニム
イシャン ニム
Offensive Security Engineer
15年以上の実績を持つ国際的なホワイトハッカーで、日本を拠点に活動しています。「レッドチーム」分野に精通し、脆弱性診断や模擬攻撃の設計を多数手がけてきました。現在はCyberCrewの主要メンバーとして、サイバー攻撃の対応やセキュリティ教育を通じ、企業の安全なIT環境構築を支援しています。
主な保有資格:
● Certified Red Team Specialist(CyberWarFare Labs / EC-Council)
● CEH Master(EC-Council)
● OffSec Penetration Tester(Offensive Security)


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