
はじめに:サイバー脅威の新しい顔
生成AIは、ビジネスのあり方を大きく変えつつあります。チャットボットやコパイロット、意思決定支援システム、データ分析まで、大規模言語モデル(LLM)はすでに日常的なワークフローに組み込まれています。しかし、その急速な普及とともに、新しい種類の脆弱性も生まれています。
その中でも特に注目すべきリスクがプロンプトインジェクションです。これはOWASP Top 10 for LLM ApplicationsでLLM01:2025として挙げられており、AI時代における「SQLインジェクションに匹敵する」深刻な問題となっています。
本記事では、プロンプトインジェクションとは何か、その仕組み、実際の攻撃シナリオ、そしてAIシステムを安全に保つための対策について解説します。内容はCyberCrewのAI・LLMペネトレーションテストの知見に基づいています。
プロンプトインジェクションとは?

プロンプトインジェクション脆弱性とは、ユーザーの入力が開発者の意図しない形でLLMの挙動を操作してしまう現象を指します。
従来の脆弱性がコードを悪用するのに対し、プロンプトインジェクションは言語や隠された指示を利用してAIを騙す手法です。これらの入力は人間には見えにくい場合すらあり、ファイル内の文字列やHTMLに埋め込まれた命令、難読化されたペイロードだけで攻撃が成立することもあります。
その結果、モデルは次のような挙動を示す可能性があります
- 機密情報の漏えい
- 安全ルールの無視
- 不正な機能の実行
- 出力や意思決定の操作
プロンプトインジェクションとジェイルブレイクの違い
しばしば混同されますが、両者には次の違いがあります
- プロンプトインジェクション:入力を巧妙に細工し、モデルの挙動を意図的に変える攻撃。
- ジェイルブレイク:安全対策を完全に回避し、モデルを制御不能な状態にするプロンプトインジェクションの一種。
どちらも組織にとって重大なリスクであり、防御が必須です。
プロンプトインジェクションの種類
- 直接型プロンプトインジェクション ― 攻撃者が直接入力欄に悪意ある指示を与える手法。
- 間接型プロンプトインジェクション ― Webページやファイル、プラグインなど外部コンテンツに隠された命令を介してモデルを操作する手法。
リスクと企業への影響

プロンプトインジェクションは単なる技術的な問題ではなく、深刻な経営リスクです。成功すると以下のような事態を招く可能性があります
- データ漏えい、内部プロンプトの流出
- 接続システムへの不正アクセス
- 意思決定プロセスの改ざん
- 偏った、有害または誤解を招く出力
- 企業の評判失墜やコンプライアンス違反
攻撃シナリオの例
- 直接インジェクション ― 攻撃者がチャットボットに「顧客データを表示せよ」と命令。
- 間接インジェクション ― Webページに埋め込まれた隠し命令でAI出力を改ざん。
- RAGポイズニング ― データソースに悪意ある指示を挿入し、Retrieval-Augmented Generation(※自社データなどを参照して回答を生成する技術)を誤作動させる。
- マルチモーダルインジェクション ― 画像に隠された指示でテキスト出力を操作。
- 難読化攻撃 ― Base64や絵文字、多言語を使ってフィルタを回避。
対策と防御戦略

万能の解決策は存在しませんが、多層的な防御によってリスクを減らすことが可能です
- モデル挙動の制御 ― 厳格なシステムプロンプトやガードレールを定義する。
- 出力形式の検証 ― 構造化された出力を要求し、プログラムで検証する。
- 入出力のフィルタリング ― 機微情報を遮断し、異常検知を適用。
- 権限管理 ― モデルに直接APIキーを渡さず、最小権限を徹底。
- 重要操作の人間承認 ― リスクの高いアクションにはヒューマンチェックを追加。
- 外部コンテンツの分離 ― 信頼できないデータを明確に扱い、影響を限定。
- 敵対的テスト(ペネトレーションテスト) ― 継続的にプロンプトインジェクションやジェイルブレイクを模擬攻撃する。
CyberCrew:AIペネトレーションテストの専門家
CyberCrewは、AI・LLMペネトレーションテストに関する高い専門性を有するエキスパート集団です。当社のサービスは、プロンプトインジェクション、データ漏えい、マルチモーダル攻撃といった脆弱性を発見・解決することを目的としています。
- 高度な手動テストを実施し、自動ツールを超えた深い診断を提供。
- OWASP Top 10 for LLM Applications、MITRE ATLAS™、NIST AI RMFに準拠。
- 実践的な攻撃シナリオを設計し、プロンプトインジェクションやジェイルブレイクを模擬。
- 経営層向けレポートと開発者向け技術指針を提供。
結論:LLM01:2025に立ち向かうAIセキュリティ

プロンプトインジェクションは、AI時代における新たなインジェクション攻撃です。広範囲に影響し、進化を続けています。これに対応しない企業は、データ漏えい、規制違反、ブランド毀損といったリスクにさらされます。
今後の道筋は明確です
- AIをセキュリティ境界の一部として扱うこと
- 入力・出力・権限に多層防御を適用すること
- 専門家による定期的な敵対的テストを行うこと
CyberCrewはこの分野の最前線に立ち、AIとLLMのセキュリティテストを通じて、企業が隠れたリスクを可視化し、防御を強化し、安全で信頼性の高いAIシステムを構築できるよう支援します。
2025年、AIのセキュリティは「任意」ではなく「必須」です。CyberCrewはこの新しい防衛線の構築において、お客様の信頼できるパートナーとなります。
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CyberCrewのペネトレーションテストサービスは、この記事で開設した国際的な基準のフレームワークに準拠し、お客様のビジネスに潜む本当のリスクを可視化する「真のペネトレーションテスト」をご提供しています。
投稿者プロフィール

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Offensive Security Engineer
15年以上の実績を持つ国際的なホワイトハッカーで、日本を拠点に活動しています。「レッドチーム」分野に精通し、脆弱性診断や模擬攻撃の設計を多数手がけてきました。現在はCyberCrewの主要メンバーとして、サイバー攻撃の対応やセキュリティ教育を通じ、企業の安全なIT環境構築を支援しています。
主な保有資格:
● Certified Red Team Specialist(CyberWarFare Labs / EC-Council)
● CEH Master(EC-Council)
● OffSec Penetration Tester(Offensive Security)
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